がんのこと

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小林咲里亜さん 小児がんを経験 ~病気の子どもたちに、生きることの本質を見せてもらいました~②

小林咲里亜さん 小児がんを経験 ~病気の子どもたちに、生きることの本質を見せてもらいました~②

今までなんて欲深かったんだろう。
今までの自分に恥ずかしい気持ちになりました。

実は、1年間入院して治療に専念するように言われたとき、内心ほっとした自分がいました。常に勝たなければ、練習しなければと自分を追いこんでいました。テレビでもライバルと比較されて、センスがあるライバルに対し「努力家の小林」と紹介されたほど。それが、土台が違うところに急に立たされて、毎日採血されて、白血球の数値次第で室内からでてはいけないとか行動が制限される生活。窓の外を眺めると、犬の散歩している人がいて、外を歩けることに、いいなーなんて思ったり。

私が入院していたのは、小児科。病気の子どもたちも親御さんも「生きる」という最低限のことに必死で、かつ無邪気。欲がないんです。そんな子どもたちと接することで励まされました。みんな明るいんです。体調に浮き沈みがあってベッドから出られないときや、立てないときもあるし、そうかと思ったら走り回っているときもあります。でも子どもながら、体調の悪そうな子を気遣ったり。病気のつらさを知っているから、自然と周りを思いやることができるんだと思います。これまで勝つことに徹し、日本一、世界一をめざしてきた自分はなんて欲深かったんだろうって思いました。

子どもたちは、友達というより「戦友」でした。

いちばん仲良くなったのは、たっくん。白血病だけでなく色々合併症もあり、とても個性的でみんなが手を焼いていたのですが、なぜだか私は気が合いました。たっくんは小さいころから入退院を繰り返していて、骨髄移植を2回も経験。延命治療状態でした。私の治療の回復期間に合わせてもらって、たっくんのおかあさん、弟と一緒にご飯を食べに行きました。「柔道をやりたい!病気が治ったら、さりあの試合を見に行く」とよく言っていました。

しかし、私が退院した後、残念ながらたっくんは中1で旅立ってしまいました。それまでよくがんばったと思います。たっくんのおかあさんに「まだ病室では"生と死の狭間"で闘う友達がいる中、たっくんの死を受けて、生きていて申し訳ない気持ちになる」と話すと「さりあには生かされている意味があるんだから、使命を全うしないと」と言われ、ハッとしました。

柔道は命の恩人であり、育ての親。私の人生そのもの。

その言葉を受けとめたとき、精一杯生きないと、と思いました。もし柔道していなかったら、ここまで前向きに病気と戦えなかったかもしれない。これまで柔道と本気で向き合ってきたから、がんに打ち勝つことができたんじゃないか。私、大丈夫という自信があった。柔道のときと同じように本当に負ける気がしなかったんです。

目標を見据えて、それだけの努力をすれば絶対達成できることがわかっていました。この人を投げたいと思う。それだけのトレーニングを積む。できた!という感覚。人生を柔道で学びました。柔道は命の恩人であり、育ての親。私の人生そのものです。

柔道を叩き込んでくれた厳しい父と、支えてくれた母。

入院中、母は何時間もかけ神奈川県の病院と兵庫県の実家を何十往復もしてくれました。父も6、7時間かけて車でお見舞いにきてくれました。遠い中、何往復もさせ、お金も時間もかかって申し訳ないと思っていたけれど、保険のお金がおりたことを知り、少し安心しました。

2回目の手術の際、父がひとりで来たことがありました。抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けていた私。手術直後、意識がもうろうとしている中、父は看護師さんに「帽子をかぶせてやってください」とお願いしてくれました。父なりの優しさだったと思います。柔道に関しては厳しい父。そんなの初めてで、めっちゃ嬉しかったです。

母は常に寄り添い、支えてくれる人です。治療費や入院費にかかるお金の心配をしていた私の気持ちを察したのか「お金より命のほうが大切だから」と言って、安心させてくれました。

がんは治った後も、なにかと体調不良がつづく病気。

手術の影響で腸が癒着していて腸閉塞になりやすかったり、退院した年にはインフルエンザに4回かかりました。耳もきこえにくいし、腎臓と副腎がないため疲れやすかったりします。がんは、パッと治った、明日から元気というわけにはなかなかいかない病気です。がん保険も最初に1回お金がもらえて終わりではなく、ずっと出るタイプの方がいいと思います。

病気になって得たものも多かった。
命があれば何でもできる。チャンスはあるやん。

柔道への恩返しができれば、と思い、大学3年生の終わり、まだかつらをかぶっている時期から東海大のジュニアの少年柔道の指導をさせてもらうようになりました。今は帝京科学大学で柔道部のコーチをしています。

病気になって失ったものも多かったけれど、得たものも多かった。得たものの方が多かったかもしれません。そっちの方が重要な部分だったなと思うので、あのまま世界一を目指して柔道をずっと続けていたかったという気持ちは、今はありません。生きることとの向きあい方を、言葉ではなく、柔道を通じて学生たちに伝えていけたらと思っています。

病室から見る外の風景が憧れになる感覚。学校に行きたい、友達と遊びたい、外でご飯を食べたい、おかあさんと一緒にいたい。普通の小学生が普通にやっていることができない環境で強く優しく生きる子どもたち。一日一日の大切さ、生きることの本質を見せてもらいました。前まで、結果がでないとダメ、結果をだすために頑張る、という感じだったけれど、がんを経験して、命があれば何でもできる、生きていたらずっとチャンスはあるやん、という気持ちになりました。

※がんを経験された個人の方のお話をもとに構成しており、治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありません。



2017年5月現在の情報を元に作成

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