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知っておきたい先進医療~陽子線・重粒子線治療法って?~

テレビの健康番組や雑誌などでよく見聞きする「先進医療」が、どういうものか知っていますか?「先進医療」とは、大学病院などで研究・開発された最新医療技術のうち、安全性と治療効果が確認され、将来的に保険診療へ導入を評価されるものとして、厚生労働大臣が認めた医療技術のことです。今回は、先進医療制度の仕組みと、がん関連の先進医療の中で比較的多く実施されている注目の技術、陽子線・重粒子線治療法をご紹介します。
コラムINDEX
先進医療って何?
重粒子線・陽子線治療って何?

先進医療って何?

■混合診療が認められている先進医療

私たちはよく、この診療には「保険がきく」あるいは「保険がきかない」といった言い方をします。公的医療保険(いわゆる健康保険)が適用される診療を正式には「保険診療」、適用されないものを「自由診療」といい、日本の医療制度では、その両方を組み合わせる「混合診療」を原則として認めていません。これらを組み合わせて診療を行うと、公的医療保険がきく診療もすべて全額自己負担となります。ただし、例外があります。

例えば、糖尿病や高血圧などの慢性病で通院しているときにインフルエンザの予防接種をしたという場合です。慢性病の診療は公的医療保険が適用される「保険診療」で、ワクチン接種は保険適用外の「自由診療」で全額自己負担となります。

先進医療も「混合診療」が認められている例外です。高度な医療技術そのものに関する費用は全額自己負担となり、診察や検査、注射などに関しては公的医療保険が適用されます。

■厚生労働大臣が認めた先端的技術が「先進医療」

では、混合診療が認められている先進医療とはどういうものでしょうか。

医療技術は日進月歩で、さまざまな治療法や検査法が国内外で開発されています。それらのうち、厚生労働大臣が先端的な医療技術であると承認したものが「先進医療」です。

もちろん、厚生労働大臣はむやみに承認するわけではありません。一定の有効性や安全性が確認されていても、公的医療保険が適用され、広く国民が受けてもよいと評価できるまでの有効性や安全性のレベルには至っていない医療、言い換えれば今後、より多くのデータを集めて有効性や安全性が十分に確認できれば公的医療保険適用となる可能性がある医療が厚生労働大臣により先進医療として承認されるのです。

先進医療と承認された治療法や検査法は、定期的に評価が行われます。一定の期間が経過すると、①先進医療として継続し、有効性・安全性を確認する、②十分な有効性・安全性が認められないので先進医療から削除する、③有効性・安全性が十分に認められたので公的医療保険が適用される「保険診療」とする(診療報酬改定時に検討され、最終決定される )のいずれかになります。

先進医療から公的医療保険が適用される「保険診療」になった
前立腺がんのダ・ヴィンチ手術

内視鏡下手術支援システムは、医師が患部の立体的な画像を見ながら遠隔操作でロボットアームを動かして手術をする方法で、現在最も多く普及している機械の名前から「ダ・ヴィンチ手術」と一般に呼ばれています。
ダ・ヴィンチ手術はさまざまながん治療に用いることができますが、そのうち前立腺がんに対しての手術が先進医療として承認され、2012年4月には公的医療保険が適用される「保険診療」となりました。

写真提供 インテュイティブサージカル合同会社

■先進医療や実施医療機関の情報は厚生労働省のホームページで

先進医療の承認にあたっては、医療の内容だけでなく、実施するのに適した条件を備えた医療機関であるかも審査されます。したがって、先進医療の種類によっては、1、2カ所の医療機関でしか行われていないものもあれば、全国的に行われているものもあります。また、先進医療の対象となる疾患や症状も限定されています。

2014年10月1日現在、101種類の先進医療が承認されており、厚生労働省のホームページに、各先進医療の簡単な内容と認定された医療機関の一覧が載っていて、適宜更新されます。

厚生労働省のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan02.html

※別ウィンドウが開きます。

重粒子線・陽子線治療って何?

■重粒子線・陽子線は放射線療法の一種

がんの代表的な治療法には大きく分けて、化学療法、放射線療法、手術療法の3つがあります。

化学療法は、抗がん剤やホルモン剤などの薬剤を体内に入れ、その薬剤が血流にのって全身に運ばれがん細胞が増えるのを抑えたり、がん細胞を破壊したりする全身療法が主体の治療法です。それに対し、放射線療法と手術療法は、がんそのものに的を絞った局所療法です。

手術療法は文字通り、手術によってがんの塊とその周辺組織を取り除く方法です。

放射線療法は放射線を照射して、がん細胞を死滅させる方法です。放射線がもつ強い線量を利用して、がん細胞のDNA(デオキシリボ核酸)に損傷を与え、がん細胞の分裂を抑え、結果としてがん細胞を死に至らせようというのが、がんの放射線療法です。

放射線にはさまざまな種類がありますが、がん治療に用いられているのは大きく分けて光子線(電磁波)と粒子線の2種類です。

従来の放射線治療に用いられてきたエックス線やガンマ線は光子線です。それに対して、先進医療に利用されている重粒子線(炭素イオン線)や陽子線は粒子線に含まれます。

治療に使われる主な放射線の種類

■進んで停止する直前に線量が最大になる粒子線

光子線と、重粒子線や陽子線などの粒子線では進み方に違いがあります。

光子線を体に照射すると、体表に近いところに最も多くの線量が当たり、体の奥深くに進むにつれ、線量は少なくなっていきます。といっても、体内で線量がゼロになるわけではなく、光子線はがん病巣を通り抜けていきます。そのため、がん病巣の前後の正常細胞がどうしてもダメージを受けてしまいます。

一方、粒子線は、一定の距離を進んで、停止する直前に線量が最も高くなります。この線量が最も高くなる深さを、発見した学者の名前をとって「ブラッグピーク」と呼びます。

ブラッグピークが、がん病巣のある場所にくるように設定すれば、体表からがん病巣までの正常細胞にあまり影響を与えずに、がん病巣だけを正確に叩くことができます。ブラッグピークを過ぎると線量は非常に低くなるので、がん病巣から先にある正常細胞にも影響を及ぼすことはほとんどありません。

■細胞に対する破壊力が大きい重粒子線

同じ粒子線ですが、重粒子線と陽子線にも違いがあります。

重粒子線がまっすぐに進むのに対し、陽子線は多少周囲に散乱しながら進みます。細胞に対する破壊力(細胞致死効果=生物学的効果)は、陽子線がエックス線やガンマ線とほとんど大差ないのに対し、重粒子線は陽子線よりも約3倍大きいといわれています。しかし、日本で陽子線治療を受けられる医療機関は9施設あるのに対し、重粒子線治療は4施設のみになっています(平成26年3月現在)。なぜなら、重粒子線、陽子線の治療施設を造るには巨額の費用がかかり、特に重粒子線装置は陽子線装置よりも大型で、より多くの費用が必要となるからです。

重粒子線・陽子線治療を行っている医療機関(平成26年3月現在)

■粒子線治療に向かないがんもある

粒子線治療にも弱点があります。例えば、的の中心に狙いを定めて矢を放ったとします。その的がフラフラと揺れ動いたら、矢は狙ったところに突き刺すことが難しくなります。それと同じことが粒子線治療でもいえます。

胃や腸は不規則に動くので、これらの部位にできたがんに粒子線を正確に照射することは困難で、粒子線治療には向きません。また、放射線全体にいえることですが、白血病のような全身に広がっているがんや広く転移したがんにも不向きです。

したがって、先進医療で認められている重粒子線・陽子線治療の適応症は「限局性固形がん」とされています。固形がんは白血病などの血液以外のがんをいい、限局性とは狭い範囲に限られるという意味です。

■粒子線治療の技術料は約300万円!

先進医療の重粒子線・陽子線治療は混合診療が認められているといっても、公的医療保険がきく「保険診療」となるのは重粒子線・陽子線治療技術以外の検査や診察などの費用に対してです。重粒子線・陽子線治療の技術部分の費用は、治療装置のコストが高いだけあって高額になっています。医療機関によって多少異なりますが、約300万円かかります。

粒子線治療を受ける際には必ず費用も含めて説明を聞き、納得して受けることが大切です。また、粒子線治療を受けたいと思ったときに、医療費を心配しないですむように、全額自己負担となる先進医療の技術部分の費用を備えておくと安心です。

協力:オーエムツー(荻 和子)