セルフチェックが早期発見の鍵
女性にとって身近ながんである乳がん。最近では芸能人の方が乳がんを公表することもあり、話題に上る機会も増えました。
事実、乳がんは日本人女性において最も罹患率の高いがんであり、現在も患者数は増え続けています[*1]。また、乳がん患者全体で最も多いのは40~50歳代の女性ですが、35歳未満の若年性乳がんの患者数も一定程度いるため油断はできません[*2]。
[*1][*2]出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
しかし、むやみに怖がる必要はありません。乳がんは他のがんと比べて、早期に発見されれば、治療後の生存率が高いことでも知られているからです。全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査KapWeb[*3]を見ても病期が早いほど5年相対生存率が高く、乳がん患者全体では93.6%と非常に高い数値を示しています。
[*3]全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2018年1月集計)による
いたずらに怖がる必要はありませんが、いつ自分がかかってもおかしくない病気であることを意識しておく必要があるでしょう。
今回、注目される若年性乳がんについて、乳がん経験者であり、現在がん患者向けのケア用品等のプロデュースを行なっているTOKIMEKU JAPAN代表取締役社長、塩崎良子さんにお話を伺いました。
若年性乳がんは、国が勧める乳がん検診の対象が40歳以上という背景もあり、検診よりも自己発見するケースが多いという特徴があります。塩崎さんも30代前半の頃にたまたましこりを発見したことがきっかけとなり、クリニックを受診。大きな病院で再検査を勧められ受診したところ、乳がんと診断されたそうです。それまで乳がん検診を受けたことは一度もなかったと話します。
「うちはがん家系だったので、(がんが)そう遠い病気ではなかったんです。いつかなるかもしれない、っていうのは何となく頭にあったんですけど、この年でなるっていうのは考えていませんでしたね」
受ける前に知りたい、検査のホントのところ
乳がん検診を受けたいと思っていても、検査自体に不安があって尻込みしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。費用負担の目安や、痛みの有無などについて見ていきましょう。
乳がん検診の大まかな流れは以下の通りです。
①乳腺外来で予約
②問診・視触診
③画像検診(超音波・マンモグラフィ)
④診断結果の通知
被ばくの心配がない超音波検査(エコー検査)にかかる費用は4,000円程度、板と板の間に乳房を引き出して挟み、圧迫して行なうマンモグラフィは5,000円程度です。
これらの検査で異常が見つかった場合、精密検査を行なうことになり、さらに詳しい画像での検査や、画像検査で乳がんの可能性が否定できない場合はしこりに針を刺して調べる針生検などが行なわれます。精密検査の結果、良性の場合は基本的には治療は必要なく、検診を定期的に受けることもありますし、治療の必要がない良性のしこりなどの診断となった場合は医療機関で経過観察(保険診療)を行ないます。針生検などの病理検査の結果で悪性と診断されると、医療機関での治療が始まります。
実際にこれらの検査を受けられた塩崎さんに、痛みや不安に思った点について聞いてみました。
「検査自体はそんなに大変ではなくて、痛みも特にありませんでした。それよりも、結果が出るまでの不安な気持ちが一番大変でしたね」
早期発見のため、そしてできる限り早く不安を解消するためにも、気になることがあったらすぐに病院へ向かいましょう。
実際に行なわれる治療と、イメージとのギャップ
診断結果が出た後は治療が始まるわけですが、事前に抱いていたイメージと実際の治療とで、ギャップを感じられた部分はあったのでしょうか。
「(乳がん治療と言えば)抗がん剤治療をするかしないかの差がすごく大きいのかな、と思っていたので、そこは気にしていましたね。結果、私の場合はトリプルネガティブ(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2の3つが腫瘍細胞に発現していない乳がんのこと)で、抗がん剤治療をするしかない、という状態でした」
抗がん剤治療というと、つらい副作用が起こる印象が強いと思います。塩崎さんも治療開始後すぐに、脱毛や吐き気といった症状が現れたそうです。一方で、抗がん剤治療の副作用について「イメージよりは酷くなかった。けれど大変は大変」と語る塩崎さん。
「もちろん抗がん剤を投与して2、3日は全く動けないし、喋れるような状態ではありませんでした。けれど私の場合、4日目くらいからはちょっとお外に出かけたりもできるようになりました」
しかし、抗がん剤を使うと体内の白血球数が減少するので、外出許可が下りるかどうかはその日のコンディション次第。感染リスクが高まるので生ものは食べられませんし、塩崎さんは味覚障害にも苦しんだと言います。
抗がん剤の後は手術、放射線の順に治療を受けられた塩崎さん。抗がん剤治療が大変だったという印象が強すぎて、手術についての記憶はあまり残っていないそうです。
また、通院で受けられた放射線治療に関しては、抗がん剤とは別種の辛さがあったと言います。照射自体は10分程度で終わるものの、毎朝決められた時間に病院へ向かい、体に良くないものというイメージを持っていた放射線を毎日かけなくてはならないという点で、精神的に辛いものがあったとのこと。
体力的にも精神的にも負担がかかる中、塩崎さんはどのように治療に対してのモチベーションを保っていたのでしょうか。
「今日これ(治療)を頑張ったら、患者友達と待ち合わせして、銀座で美味しいランチを食べようとか。働いている時には時間がなくて通えなかったビジネススクールに行ってみたりだとか。楽しいことを見つけてモチベーションを保つようにしていましたね」
忙しく働かれていた時にはやりたくてもできなかったこと、時間ができたからこそできることを、体調と相談しながら前向きに楽しむよう努められていたそうです。
また、主治医の先生やご家族、恋人やご友人が全力で手助けしてくれたおかげで、治療が辛くても自分を投げ出すことはなかったと語ります。塩崎さんにとっては周囲の人たちへの感謝の気持ちも、モチベーションを保つために大切な要素の一つだったようです。
治療後も自分らしく生きて行くために
ところで治療にあたり、経済的な面での負担はどうだったのでしょうか。
塩崎さんはがん保険に加入しておらず、公的制度も入院時に高額療養費制度を使ったくらい、だそうです。「貯金を全力で使ってしまいました」とのことで、当時は先々を不安に思う余裕もなかったそうです。これに関しては「今では、もうちょっと考えて使えば良かったかなと思うんですけど」と苦笑いされていました。
実際、若い女性でがん保険に加入されている方は多くないでしょう。しかし、早いうちから自分の健康に対して何らかの対策をしておくことは重要です。貯蓄に自信のない方は、早いうちからがん保険への加入を検討した方が良いのかもしれません。
今も、再発や転移に関する不安は尽きないと言います。ですがそれについて塩崎さんは「考え出すときりがないので、不安のまま突き進めば良いと思っています」と話します。不安な気持ちを無理に否定しないことが、がんと向き合うために必要な考え方なのかもしれません。
最後に読者の皆さんに向けて、メッセージを頂きました。
「病気になるって、本当に不慮の事故みたいなものです。けれど、どんな状況にあっても“自分らしく生きる”のが大切だと、私は思っています」
必要以上に乳がんを恐れるのではなく、日々の備えを万全に。何があっても“自分らしく”を忘れずに生きていきたいですね。
<お話を聞いた人>
塩崎良子さん
2006年アパレル会社を起業。数々のショップを経営する最中、2014年1月に若年性乳がんを発症。2016年2月、社会起業家を輩出するビジネスコンテストソーシャルビジネスグランプリ2016年でグランプリと共感大賞をW受賞。その後、株式会社ベータカタリストの支援をうけて2016年7月、株式会社TOKIMEKU JAPAN設立。2017年1月にケア・介護用品ブランド「KISS MY LIFE」を立ち上げる。
<監修>
ピンクリボンブレストケアクリニック表参道
院長 島田 菜穂子 先生