「がん」は、治療が長期に及ぶことも多く、生活に大きな影響を及ぼす病気として知られています。一方、治療法も進歩をしており、必ずしも入院が必要ないというケースも増えつつある中で、がん患者も生活者の一人であることが見直され始めています。

治療が長くなる中で、患者はいろいろな悩みを抱えます。当初は治療のことで頭がいっぱいでも、体調が安定してきたり療養生活が長引いたりしてくると、社会復帰や経済面など別の悩みも出てきます。そうした治療以外の悩みについては、どこに相談していいかわからず、抱え込んでしまうこともあるようです。

そんな時、頼りになるのは同じ経験をしている患者や経験者。支えられるだけの存在から、お互いに支え合う「支え合い」へ。多様化し始めている「支え合い」という活動についてご紹介します。

治療以外のことも相談しやすい「支え合い」とは

患者や経験者が自身の経験を基に他の患者を支えるのが「支え合い」。自分以外の経験談を聞くことで、患者は抱えている問題について具体的な解決法を見い出せることがあります。

「支え合い」では、どのような活動がされるのでしょうか。

「がん治療中の肌やメイクの悩みに対して、一般的なメイクの工夫が役に立つことも少なくありません。普段のメイクを勉強してそれをお伝えするなどでも十分に支え合い活動になります。」

そう教えてくれたのは、NPO法人キャンサーリボンズの廣瀬瑞穂さん。がん患者も生活者であるという理念のもと、がん患者とくらしをつなぐ活動をされています。

ジェスチャーを交えて説明をしてくれる廣瀬瑞穂さん

「がん患者も生活者の一人なんです。だから、一方的に支えられるのは抵抗があるのではないでしょうか。自分も社会の一員として、役に立ちたいという思いはあるはずです」

廣瀬さんは、そのように患者の心情を教えてくれました。患者のそのような想いをかなえるためには支援が必要となるでしょうが、医療者だけではその支援にも限界があるといいます。

「治療のことに関しては医療者も支援できるでしょうが、生活面のことなどはなかなか難しいと思います。そんなときには、社会のリソースにも目を向けてほしいと思います」

社会にある支援組織を活用することで、医療者の負担を減らすこともできる。社会と患者が支え合うようなかたちを目指せると廣瀬さん。どんな支援組織があるのか引き続き、教えてもらいました。

支援組織の特徴

患者同士の支え合いというと、最初に頭に浮かぶのは「患者会」 ではないでしょうか。「患者会」とは同じ病状を持つ患者が集まる会のことで、情報交換の場やさまざまな支援を提供してくれます。最近ではオンラインの患者会も登場しているとか。

「時代の移り変わりとともに、つながり方にも変化が出てくるのかもしれませんね」と廣瀬さんは述べます。

患者会を利用する際に注意したいこととしては、治療に関心が高い人が多い傾向にあることだそうです。ですから、自分の治療への評価などが話題になることもあるそう。医学的なことは担当医に確認することも大事とのことです。

また、最近では患者会よりもカジュアルな場として「患者サロン」などが企画されることもあるようです。「患者サロン」とは患者会と比べて気軽に参加できる、小規模な集まりというイメージです。

しかし、廣瀬さんによると「ピアサポート」の希望者が最近増えているのではないかといいます。「ピアサポート」は、個人などより小さい規模で支え合う仕組み。ピアサポートを行なうピアサポーターとして電話相談員をしている人などがいるそうです。

「ピアサポーターになりたい人は多くいるようです。でも、どうやって実践すればいいかわからずに迷っている人も多いように思います」

正面を向いている廣瀬瑞穂さん

そうした場合に役立つのが講座だといいます。NPO法人キャンサーネットジャパンでは「乳がん体験者コーディネーター」「がん体験者スピーカー」など、支え合い活動のきっかけになりそうな講座を開催しています。

「講座を受けることで支援活動のモチベーションが上がったり、行動を起こすきっかけになったりしやすいと思います。講座よりも初心者向けとなるセミナーも増えているので受けやすいのではないでしょうか」

廣瀬さんによると、ピアサポートを行なうことで、経験者が能力を活かしている、という自信や自己実現感につながるといいます。ただし、がんは個人によって症状が異なることも多い病気です。そのため、ピアサポートを行なう際も個人の体験を語りすぎないことが大事なのだそうです。

図書館が情報交流の場に最適

さまざまな支え合い活動を行なう組織があることはわかりましたが、どういったところでそれらの情報を得るのがいいのでしょうか。廣瀬さんによれば図書館に行くのがおすすめだそうです。

廣瀬さんが活動しているキャンサーリボンズでは、「リボンズハウス」という取り組みを実施されています。図書館と提携して実施することが多いそうで、製薬会社が作っている冊子を図書館に置いてもらったり、ビジネス支援図書館と連携した活動を行なうなど情報の集積をしているとのこと。

「図書館には司書という検索のプロがいますから、知りたい情報を探してもらうにはうってつけの場所だと思います。図書館も課題解決型を目指しているので、とても協力的です」

普段からがんと向き合うために

患者会にしろピアサポートにしろ、いきなり参加するのは気後れしてしまうこともあるでしょう。そのため、日頃からがんに向き合っておくのが良いと廣瀬さんは語ります。

「まずは患者会のオープンセミナーに参加してみるのがいいと思います。いろいろな患者会があるので、合う合わないがどうしても出てきます。ご自身で雰囲気を感じてみて、判断するのがいいと思います」

また、がんの相談窓口である「がん相談支援センター」はがん患者でなくても利用できる施設。普段から実施されているセミナーや勉強会に参加しておくのもいいそうです。

長い治療期間を必要とする病気、がん。一人で悩みを抱え込まず、支えられながら、ある時は支える立場になる。そんな、がんとの向き合い方もあるのですね。

<お話を伺った人>
NPO法人キャンサーリボンズ 事務局 廣瀬瑞穂さん
2008年のNPO法人キャンサーリボンズ発足以来、事務局長として、「がん治療と生活をつなぐ」様々な企画・運営に携わる。設立当初から、「がん治療と仕事の両立支援」「医療用ウィッグのためのヘア・ドネーション」など、社会の先がけとなるような活動にも取り組んできた。2017年には、NPOの理事・委員ほかによる共著で、蓄積してきた生活支援の知見をまとめた『がんの治療と暮らしのサポート実践ガイド』の編集・出版を推進した。株式会社朝日エル取締役。