厚生労働省が発表した「平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況[*1]」によると、2017年にがん(悪性新生物)で死亡した人は男女併せて373,334人、全死因の中で、がんによる死因は27.9%と最も高い原因となっています。

      

がんは私たちの人生に突然振りかかってくる可能性のある問題です。しかし、若い方や、がんにかかった家族がいない方の中には、がんのことが良くわからないという人も多いのでは?

しかし、いつ自分や大切な人に襲いかかってくるかわからない、がんのことについて何も知らないのも心もとないもの。最低限知っておくべき4つのキーワードについて解説いたします。

[*1]厚生労働省「平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況 第6表 性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」より

5年生存率

診断から一定期間後に生存している確率のことを「生存率」といい、がん患者の生存率はその治療効果を判定する重要な指標とされています。診断からの経過期間によって様々な生存率があり、なかでも「5年生存率」は部位別生存率を比較する場合の指標として頻繁に用いられており、便宜上の治療率の目安とされています。なお、生存率は比率であり、個々の患者の余命ではありません。
数値が大きければ大きいほど、治療により生命を救える可能性のあるがんであることを意味します。

がんの発生箇所や、診断された時のがんの進行状況に応じて5年生存率は異なります。

国立がん研究センターのがん情報サービスでは「5年相対生存率」と記されています(本稿では5年生存率に統一します)。5年生存率はがんに限った言葉ではありませんが、がんでよく用いられています。

日本の大腸癌の研究・診療を牽引している大腸癌研究会がまとめた資料「大腸癌治療ガイドライン 医師用2016年版」によれば、大腸がんを取り除く手術後の経過年数別累積再発出現率において、術後5年を超えて出現する再発例は全体の1%を切っています。がんが発生した箇所や患者さんのそもそもの健康状態によっても異なる数字ではありますが、術後5年という期間が一つの完治の目安の期間であるといえるでしょう。乳がんの場合は再発の可能性がもう少し高く、術後5~10年を経過して再発することもあります。
このため、一部部位は除きますが、5年生存率は、治療によりがんが完治した率と近しい比率といえます。
なお、5年生存率の数字には、がんが再発してしまった患者さんも含まれていますので、生存率と完治した率がイコールでないことには注意が必要です。

ステージ

がんの進行度がどのようになっているかの指標が「ステージ」です。一般的にがんの大きさ(広がり)、リンパ節への転移の有無、他の臓器への転移を元に0からⅣの5段階で表します。数字が大きくなるほどがんが進行していることを意味します。

がん細胞が最初に発生した場所からほかの場所へ転移するのは、血液リンパの流れにがん細胞が乗ることがあるからです。リンパの流れが集まるリンパ節、また、血液がたくさん流れる脳や肺、肝臓、骨などに転移することでがんの進行度が増します。

従って、定期的にがん検診を受けて早期発見を心がけると良いでしょう。

三大治療

がんになってしまったらどのように治療するのでしょうか?
基本的には「三大治療」と呼ばれる

・手術(外科治療)
・放射線治療
・薬物療法(抗がん剤治療)

の3種類があります。それぞれどのようなものか、概要を解説します。

これらの治療は単独で行われることも組み合わせて行われることもあります。

手術(外科治療)

外科的にがんを切除するのが手術です。確認できていないがん細胞が転移している可能性も考慮し、目に見えるがん組織だけでなく周囲のリンパ節を取り除きます。

完全に取り除ければ体内からがんを消すことができるのが手術のメリットです。早期に発見されたがんで転移していなければ、内視鏡や腹腔鏡といったカメラを使った手術で患者さんの身体にできるだけ負担無く、完全に取り除くことも期待できます。

転移してしまった場合などでは対症療法的な効果しか期待できなかったり、切除する部分が大きかった場合には臓器などの機能が一時的・恒久的に失われてしまったりするケースもあります。

また、手術合併症や後遺症など、一般的な手術に関するリスクも潜んでいます。

放射線治療

遺伝子を傷つけて分裂しないようにしたり、細胞が脱落する現象を強くしたりすることでがん細胞を殺し、治療します。21世紀になってがんの放射線治療はとても進歩したといわれています。

放射線にはがん細胞を殺す力がありますが、強い放射線が正常な細胞に当たってしまうと、そこにもダメージを与えます。

身体の外から放射線を当てるケースと、病巣内・病巣付近に放射性物質を入れて身体の中から放射線を当てるケースがあります。

放射線治療をできる医師や機器の数が少なく、がんの種類や放射線治療機器の選択によっては治療開始まで数ヵ月かかることもあるようです。

公益社団法人日本放射線腫瘍学会(JASTRO)のホームページには放射線治療専門医の名簿や安全で高精度な放射線治療を推進できる施設とJASTROに認定された施設のリストが掲載されています。

薬物療法(抗がん剤治療)

薬物療法は抗がん剤を投与することによる治療です。がん細胞が増える仕組みやがんに関わるホルモンの作用を抑えたり、がん細胞の原因となっているタンパク質を攻撃する物質・抗体を投与したり、未熟ながん細胞の性質を変えてしまうことで治療します。

がんの多くは臓器に塊となってできるものです。一部分にがんがとどまっているうちは手術で取り除いたり放射線による治療をしたりすることができますが、がんが残ってしまった場合は血液やリンパ液を経由してほかの場所に転移し、ステージが進行してしまう場合もあります。

そうした全身のどこにあるのかがわからないがんに対して効果があるのが抗がん剤やホルモン剤を用いる薬物療法です。

副作用を伴うケースが少なくないことと、薬物療法を用いても完全に治療できる保証がないことが薬物療法のネガティブな要素となります。

完治と寛解

がんへの対処が上手くいった状態として表現される言葉に「完治」「寛解」という言葉があります。この違いについて説明します。

根本的な治療が完了した「完治」

手術が完全に成功した場合など、体内からがんを取り去れた場合には「完治」「治癒」と表現します。

しかし、がんが再発・転移する可能性がゼロでは無いため、術後、一定の期間は再発していないかどうかを確認する診療が大切です。

5年生存率の欄で説明しましたように、がんでは術後5年間再発しなければ完治したと見なします。一般的にはこの時点で「完治」「治癒」したということになるでしょう。

なお、完治に向けて根本的な治療を行うことを「根治治療」と呼びます。

再発しない状態が続いている「寛解」

一方、がんが一時的に縮小または消失しているなどの理由で発症していない状態が続いていることを「寛解」と表現します。

血液がんといわれる白血病の治療の場合などでは、骨髄中の白血病細胞が一定のパーセンテージを下回った場合に「寛解」と見なします。完治はしていないものの症状を抑えている状況です。

寛解はその後にがん細胞が増えたり転移したりする可能性もあるため、寛解の状態を保つために治療や診察を継続する場合もあります。

<監修>
東京大学医学部附属病院放射線科准教授
放射線治療部門長 中川恵一先生

2018年5月現在の情報を元に作成