日本人にとって身近であり、また怖い病気として認識されている「がん」。内閣府による世論調査[*1]では、がんに対する印象について、「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と回答した人が全回答者の72.3%にのぼりました。

[*1]内閣府「平成28年11月調査_がん対策に関する世論調査」より

同調査では怖いと思う理由も尋ねており、最も多い「がんで死に至る場合があるから」(72.1%)に次いで、「がんの治療や療養には、家族や親しい友人などに負担をかける場合があるから」(55.2%)が挙げられています。

たしかに、がん患者の家族は「第二の患者」とも言われるくらいに、心理的・身体的な負担を感じると言われています。身近で大切な人が病気と向き合っている傍らでは、“患者が頑張っているのだから、自分も一生懸命に支えなければ”という思いから、介護の疲れや不安・ストレスを抱え込んでしまい、ときにはがん患者以上に心のケアを必要とすることもあるそうです。

そうしたがん患者の家族の不安やストレスを軽減するには、やはり同じような悩みについて理解してくれる人との交流が有効です。日本にはがん患者の家族向けにさまざまな支援サービスを提供してくれる団体がいくつもあります。

ここでは、どのような団体や施設があるのか、実際に利用した方の声とともにご紹介していきます。

専門家を交えて語り合える「がんサポートコミュニティー」

専門家を交えて語り合える「がんサポートコミュニティー」

患者と同じくらいに心のケアを必要とするという、がん患者の家族。そうした心理的負担を軽くするには、心理面の専門家のサポートを受けるのも効果的でしょう。

「認定NPO法人がんサポートコミュニティー」は、臨床心理士や社会福祉士、看護師といった専門家による心理社会的なサポートを提供する団体。世界最大規模の国際的ながん患者支援非営利団体Cancer Support Communityの日本支部です。

「私たちは、誰もが『がんとひとりで向き合わない』社会を目指して、がんと向き合う人たちが『気持ちを整理する』『情報を整理する』『心身のバランスをとる』ためのサポートプログラムを医療・看護・社会福祉・臨床心理といった分野の専門家によって提供しています」

団体を紹介してくれたのは、同法人の大井賢一さん。がんと向き合う同じような境遇の人たちが専門家を交えた安心で安全な「場」に集い、それぞれの体験を語り合う「機会」を東京・千葉・大阪といった地域コミュニティで提供しています。

「私たちの活動は、がん患者同士が支え合うピアサポート[*2]の場に、看護・社会福祉・臨床心理の専門家が2人ずつファシリテーターとして加わる日本唯一の地域コミュニティに開かれた『サポートグループ』です」

大井さんはこのように活動の特徴を教えてくれました。ピアサポートは患者同士の悩みを共有することはできても専門的なサポートは難しいことがあります。そこに専門家が加わり、ともに体験を語り合えるということであれば、とても有意義な場と機会になりそうです。

また、同法人では複数の医師による医療相談や、がん患者支援アプリの提供による情報整理の支援、さらに心身のバランスを整えるためのヨガやアロマテラピーといったリラクゼーションも提供しています。

さまざまな手段による支援を受けられるので、がん患者はもちろん、介護によって心身のバランスを崩しやすい患者の家族にも嬉しい支援施設ではないでしょうか。

[*2]同じような立場にある人が行う支援のこと。

やすらぎの空間で語り合える「マギーズ東京」

やすらぎの空間で語り合える「マギーズ東京」

「特定非営利活動法人マギーズ東京」は、がん患者と支援者のために開設されたイギリス発祥のマギーズキャンサーケアリングセンターの東京拠点です。マギーズセンター発祥のきっかけとなったイギリスの造園家・造園史家マギー・K・ジェンクスさん自らの経験から「自分を取り戻せるための空間やサポートを」をコンセプトに、がんに直面した患者本人のほか、その家族や友人たちのための空間、そして専門家のいる場所を創ろうと思ったそうです。

そのコンセプトを受け継いでマギーズセンターが誕生。名だたる建築家らが設計した複数の施設がイギリスを中心に開設されています。それぞれのセンターはマギーさんが残した「建築概要」に従って設計され、訪れる人が自らを尊重されているような気持ちになるような配慮がなされています。

マギーズ東京はその東京拠点。「友人のような看護師・心理士のいる心地よい居場所」として、予約なしに無料で訪れることができ、静かにゆっくりと過ごしたり、看護師や心理士と気兼ねなく話したり、あるいはストレスマネジメントや食事と栄養などのグループプログラムに参加したりすることもできます。木材がふんだんに使われた内装、そして大きな窓から見える緑の木々など、心を落ちつかせてリラックスできる環境が用意されています。

「来訪された方が自由に書き込めるノートがあるのですが、そこには『ここに居るだけでほっとする』『話をきいてもらうだけで心が軽くなった』『霧が晴れていく感じがした』といった言葉が多く綴られています」

そう教えてくれたのは、マギーズ東京の常勤スタッフである岩城典子さん。実務経験20年以上というベテランの看護師です。

利用したがん患者の方からは、「同じ境遇の人とお話しできたり、自然の中で自分と対話できる時間を持てたりするので重宝しています」との声も。また、患者さんだけでなく、家族の方の利用もあるといいます。

「皆さん、病気のことだけでなく、いろいろな悩みを抱えて来訪されます。なかにはお話をされていくなかで、涙をこぼされる方もいらっしゃいます。それまで抱え込んでいたものがスタッフと言葉を交わすことで解放されるのだと思います」と岩城さん。

がん患者は医師や家族に相談することもできますが、その患者を支える家族は誰に相談していいかもわからず、また患者でもないのに弱音を吐いていいのだろうか、と悩む方も少なくありません。

マギーズ東京のように気軽に訪れることができ、理解のある方たちと交流できる施設は、がん患者の方はもちろんのこと、悩みを抱えるがん患者の家族の方にとっても心強い存在となりそうです。

がん患者の仕事や職場での問題をともに考えてもらえる「CSRプロジェクト」

「マギーズ東京」室内写真

がんになったときに抱える大きな悩みの一つに仕事や収入のことがあります。冒頭で挙げた世論調査[*1]でも、現在の日本において、がんの治療や検査のために2週間に一度程度、病院に通う必要がある場合に働き続けられると思うか、という質問に対して、「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」と回答した人の合計が64.5%と半数以上が就労に対して不安視している状況が見えてきます。

[*1]内閣府「がん対策に関する世論調査(平成28年11月調査)」より

実際、がんの治療費自体は貯金やがん保険などの備えである程度はまかなえるものの、治療前後の生活を考えると、やはり就労・収入の問題は重要です。しかし、治療のことではない生活のこととなると、医師に相談してもなかなか簡単に解決できるものではありません。

そのような、がんと就労の問題に取り組んでいるのが「一般社団法人CSRプロジェクト」です。
通常、CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と言う意味で使われていますが、 ここで言うCSRとは「Cancer Survivors Recruiting」の略で、「がん患者の就労」を考えるプロジェクトを指します。

スタッフの高橋みどりさんによれば、

がんになっても安心して働ける社会を作ることを目標に活動しています。がんになると仕事のことでさまざまな問題が生じてきます。そうした問題を一人で抱えるのではなく、一緒に考えていきましょう、ということを掲げています」

と活動方針について教えてくれました。

具体的な活動内容の1つは電話による相談窓口の開設。がんサバイバーでもあるキャリアカウンセラーや社会保険労務士が応対を行ない、がん患者の仕事にまつわる悩みの相談に乗っています。

もう1つは月に1回、就労中のがん患者が集まって悩みを共有したりする場を設けています。こちらにも社会保険労務士などのスタッフが交じり、問題の解決策を探るという活動をしています。

利用した方からは、「自分一人で仕事と治療を両立するのは大変で孤独を感じることもあります。しかし、ここに来れば同じ悩みを抱えた仲間が居る、と感じて孤独感が薄れます」「思っていたよりも具体的で専門的なお話が聞けました。金銭的な負担も少なく専門家の支援を受けられるのは大変ありがたいです」などの声が聞こえてきました。

こうした集いの場や相談窓口は、がん患者の家族の方にとっても救いとなることがあるようです。

「以前に電話で相談されてきたのは、ご主人ががん治療後に復職したものの、病気になる前のように夜遅くまで猛烈に仕事をしていることを案じている奥様でした。ご自身の思いをしっかりとご主人にお伝えするようアドバイスし、辛くなったら話を聞くのでいつでもいらしてください、とお伝えすると安心されたご様子でした。やはり、ご家族の方も誰かに話を聞いてもらうという場は必要だと思います」

と高橋さんは過去にあった事例を教えてくれました。患者本人でもなく、また相談内容が病気自体のことではないと、どこに相談すればいいかわからず悩みを抱えてしまいがちになります。とくに就労にまつわる話となると、専門的な知識も必要となる場面が多いでしょう。そんなときは、経験豊富な専門家によるアドバイスが受けられるCSRプロジェクトを尋ねてみると良いでのはないでしょうか。

知識に加えて経済的な備えもしておきましょう

それぞれに特徴のある三団体をご紹介しました。どの団体でも、患者さんはもちろんのこと、そのご家族の利用も歓迎しています。不安やストレスを抱え込んで苦しまないためにも、こうした団体があることを知っておくことが大事かもしれません。

実際、今回ご紹介した団体にたどり着くまでにさんざん悩んでしまい、もっと早く知っておけばよかったという利用者の声も聞かれました。あらかじめ、こうした情報を知っておくことは、いざというときの備えになるでしょう。

また、こうした団体の支援を受けながら、一方でがん患者ご自身は治療に臨まなくてはなりません。そのためにはどうしても経済的な負担も生じてしまいます。しかし、経済的な負担はがん保険などを使って備えることができます。治療に専念するためにも、がん保険で備えておくとよいでしょう。

がん保険の中には、患者様やご家族の方へ向けた、相談を受けられるサービスを備えたものもあります。病気についての解説や、専門医の紹介などが受けられるため、がん保険を選ぶ際には、そうしたサービス面にも注目してみるのもいいかもしれませんね。

2018年12月現在の情報を元に作成