小児がんの経験者は治療を終えても、病気や治療の影響が後々まで残ることがあります。今回は小児がん経験者の就労とそのサポート体制について、「公益財団法人 がんの子どもを守る会」のソーシャルワーカーである樋口明子さんにお話を伺いました。

病名にすると数十種類! 小児がんって何?

子どもがかかる様々ながんを総称して「小児がん」と呼び、その分類は「白血病」「脳腫瘍」「神経芽腫(しんけいがしゅ)」など数十種類にも及びます[*1]。大人に比べると子どものがんの発症は少なく、日本で1年間にがんと診断される数は、小児(0~14歳)で約2,100例と推計されています[*2]。

「早期発見が難しく、生活習慣病ではありません。もちろんその子自身や両親の責任でもありません」と樋口さん。原因不明のものが多く、予防もできないと言われています。小児がんの治療は、手術などの外科的治療、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)などを組み合わせて行ない、治療を終えることができる子もいますが、未だに治療が難しい疾病もあります。

[*1]出典:国立成育医療研究センターホームページ「小児がん」より
[*2]出典:「国立がん研究センターがん情報サービス」の「小児・AYA世代のがん罹患」(2018年05月30日時点)より

がん治療の影響が後に出る「晩期合併症」とは?

命を救うための治療が、がん細胞を死滅させたり増殖を抑えたりする一方で、時に正常細胞にも影響を及ぼすことがあります。樋口さんによると「特に子どもは成長発達をしている段階で治療をします。病気そのものの治療が終わっても、薬や放射線、手術などによって副作用が出る場合があることや、病気そのものの影響が後々まで残る可能性もあることが分かってきました」とのこと。これを総称して「晩期合併症」と呼ぶのだそうです。

「種類もまちまちです。それがいつ、どんな風にどういう形で表れるかは、そのお子さんによって異なります」と言われるのが晩期合併症の特徴で、そのため小児がん経験者に対しては、「長期フォローアップ」といわれる治療後の身体と心の健康の管理がとても重要になるのだと樋口さんは語ります。

「公益財団法人 がんの子どもを守る会」のソーシャルワーカーである樋口明子さん

「自分が受けた治療内容を知って、リスクを知ることが大切です。日常生活の上でも気をつけるべきことが出てくるかもしれませんからね」

受けた治療によって後にどんなリスクがあるか、ある程度は予測できます。しかし、治療を受けた子どもたち全員が晩期合併症を抱えるわけではないのです。

一方で20歳を過ぎてからも小児がんの治療が続く人もいます。医療費が高額になっても、医療費の助成は18歳未満(18歳以上でも引き続き治療が必要であると認められた場合は20歳未満まで)が対象です。他にも入院時の差額ベッド代、通院の交通費などの費用がかかることもあります。公的保障制度だけで足りない場合は、預貯金や、民間保険などの私的保障でカバーして、経済的なリスクに備えることも必要かもしれません。

時には人生設計に影響も。何がしたくて何に配慮が必要か?

晩期合併症の場合は、就労支援が求められることもあります。「例えば心臓に負担がかかる抗がん剤を使った方は、激しい運動は避けたほうがいいかもしれません。プロスポーツ選手になりたいと思っているお子さんにとっては、その実現は難しくなるかもしれない。これからの人生の選択や設計に影響が出てくると言わざるを得ないのかもしれません」と樋口さん。小児がん経験者がやむを得ず抱えていくしかないような悩みの具体例を教えてくれました。

そもそも障壁のない人生はありません。時に身長や視力などが就労上の障壁になることもある、という意味では病気を経験している人もしていない人も同じなのです。ただ、それがあまりにも大きなものであるがゆえに、大きな障壁にも感じてしまうのです。でも、それを受けとめて何ができるかを考える必要はあるのです。

「現状をどうやって利点に変えていくか。就労するにあたって、あなたは何ができて、他人にどう貢献できるのか。もしくは仲間に配慮してもらう必要があるのか。それを伝えることが大切」と樋口さんは訴えます。

現在、若者の就労が社会の課題となっています。小児がん経験者の場合、がん経験者ということで就労が難しいのか、そもそも若者だから就労が難しいのか。病気をしていてもしていなくても、様々な方がそれぞれ就労の難しさを抱えているので、その方固有の支援がそれぞれに必要ということなのです。

実際に、小児がん経験者の多くはやりがいを見つけて働いています。「小児がんだったからといって就労できるわけではありませんし、それを理由にした就労が幸せだとは思いません。その人自身の魅力を感じてもらい、有用な人材だから力を貸してほしいといってくれる仲間に出会って欲しい」と樋口さんは想いを語ってくれます。

人が生きていくためには「自立」や「就労」が重要な要素となります。「収入を得るというのは、凄いこと。社会に、仲間に必要とされるということにプライドを持って、仕事をして欲しい」と樋口さんは願っているそうです。

子どもの将来を考え、家族ができること

小児がん経験者の就労に向けて家族はどう臨むべきか。引き続き、樋口さんに聞きました。大事なのは「保護者が一人で抱えこまない、子どもの将来を考えるのを頑張りすぎない」ことだと言います。社会から孤立せず、周りに支援を求めること。これも小児がんだから特別なことというわけではなく、子育て中のどの保護者にも言えることだと言います。

「私一人で頑張っていると保護者が辛く思えば思うほど、お子さんも苦しんでいるのではないでしょうか」と樋口さん。学校の教員、行政や保健機関のスタッフなど、親子を見守る人は身近にたくさん存在しています。

「こちらがもどかしくなるくらい、抱え込んでおられる保護者もいます。そんなときは苦しみを一緒に共有して、親御さんと一緒に一歩踏み出したいと思っています。一人で抱えることも親御さんと家族の選択だったら、それに少しでも寄り添って、困ったときに一緒に考えたい。それが私たちにできるサポートだと思っています」と樋口さんは活動にかける想いを教えてくれました。

真剣な表情で語る樋口明子さん

支援する団体も様々。自分に合うところを見つけて

支援を受けながら就労する、技能を身につけながら就労を続けていく。仕事と本人の間に入って就労に繋げる多様な支援が社会にあります。小児がん経験者を支えてくれる団体や小児がん経験者でなくても使える社会支援も実はたくさんあるのです。

例えば雇用についてのサポートは、「子ども・若者総合相談センター」「ハローワーク」「職業訓練機関」「若者サポートステーション」などが全国にあります。「機関によって得意分野があるので、一つに行ってみて参考にならなかったから全部がダメと思わないで欲しいです。自分に合うところを見つけて活用することが大切だと思います」と樋口さん。

もちろん「がんの子どもを守る会」の他にも家族を支える団体や当事者の会は多くあります。そのほとんどが連携し合っているので、どこかと知り合い、繋がることで家族の大きな支えになっていくのではないでしょうか。

がんだから特別なのではなく、様々な病気や事情を抱えている人が社会にたくさんいる現実に気づいてほしい、という想いで樋口さんは相談に対応されているそうです。

がんと共に生きる時代。それを専門機関や地域社会が支えていきます。

<お話を聞いた人>
樋口明子さん
公益財団法人 がんの子どもを守る会
ソーシャルワーカー/社会福祉士/精神保健福祉士

2018年9月現在の情報を元に作成