仕事篇 work

「まず上司に電話しました」
――なんの前触れもなく、
27歳で突然の卵巣がん。

――まずは仕事とがんについてお伺いします。
長藤さんが卵巣がんに気づいたきっかけから教えていただけますか?

長藤 長藤

27歳の時でした。本当に普通の会社員で、これまでに病気ひとつしたことがありませんでした。生理痛も一度も感じたことがないし、生理不順もない。周りにはPMS(月経前症候群。生理が始まる前に起こる心と体の不調のこと。)がつらい友達もいましたが、私はそういうこともなかったので、「婦人科系は強い体質なんだろうな」くらいに思っていました。

エミリン エミリン

それは疑わないですよね。

長藤 長藤

だから何の違和感もなくて。きっかけも本当に偶然でした。温泉旅行と生理が重なりそうになったので、初めてピルをもらおうと思い婦人科に行ったんです。

タナカガ タナカガ

えっ、それで見つかったんですか?

長藤 長藤

薬を出す前の診察で、「卵巣が少し腫れているから、大きい病院で診てもらった方がいいかも」と言われて。大丈夫と言われたら安心できるかな、くらいの気持ちで受診したら、そのまま卵巣がんが見つかりました。

エミリン エミリン

怖すぎる……。

長藤 長藤

本当に症状がなかったので、「がんです」と言われても何が起きたのかわからなかったんです。

タナカガ タナカガ

温泉旅行がなかったら、もっと発見が遅れていたかもしれないってことですよね。

長藤 長藤

卵巣って“沈黙の臓器”とも言われていて、腫瘍がかなり大きくなるまで症状が出ないことも多いそうなんです。私の場合も、卵巣が15センチまで腫れていました。

タナカガ タナカガ

それだけ大きくなっても気づかないんですね。

長藤 長藤

先生から「今この瞬間に破裂してもおかしくない状態です」と言われました。元気な状態で病院へ行っているので、「卵巣を摘出します」「がんです」「すぐ手術です」と次々言われても全然追いつかなくて。なので最初は悲しいというより、びっくりしました。でも時間が経つにつれて、今度は仕事や将来のことが押し寄せてきました。

エミリン エミリン

情報が渋滞しますよね……。

タナカガ タナカガ

将来というと?結婚や出産のことですか?

長藤 長藤

当時は未婚だったので、「子どもを産めるのかな」とか、「結婚はどうなるんだろう」とか。でも同じくらい大きかったのが仕事の不安でした。

エミリン エミリン

ちょうど働くのが楽しくなってきた頃ですもんね。

長藤 長藤

しかも、私の場合は、「3カ月で治ります」など完治までの期間は言ってもらえなくて。「治るまでです」としか言われない。
1年、2年、3年なのかもわからない。「会社に何て伝えよう」「籍を置いてもらうのって迷惑だよな」とか、いろんなことを考えていました。

タナカガ タナカガ

最初に病気のことを伝えたのは誰だったんですか?

長藤 長藤

上司です。
病院からの帰り道に電話しました。当時は営業職で、お客様もたくさん担当していましたし、まず仕事をどうしようという気持ちが強かったんです。

エミリン エミリン

すごい……。真っ先に仕事のことが浮かんだんですね。でも、私もそうなるかもなぁ。

長藤 長藤

ホームで電話して、「ちょっと信じられないと思うんですけど聞いてください」って。そしたら上司が「辞めるって連絡かと思ったよ」って言ったんです。

タナカガ タナカガ

私でもそう思うかもしれないです。まさかがんなんて想像もできないですもん。

長藤 長藤

そのあと、「そんな心配するな」「お前は治すだけだ」「数字なんてどうでもいい。まずは治してこい」って言ってくれて。

エミリン エミリン

めちゃくちゃいい上司ですね。頼りになる!

長藤 長藤

本当に救われました。病気になった時って、自分が周りに迷惑をかける存在になったような気持ちになるんです。でも、その言葉で「まずは治療に集中していいんだ」と思えました。

タナカガ タナカガ

上司に連絡したあと、次に伝えたのは?

長藤 長藤

付き合って2週間だった彼です。今の夫なんですけど。

エミリン エミリン

2週間!?

タナカガ タナカガ

すごいタイミング……。

長藤 長藤

その日のうちに会いに行きました。でも実は、別れようと思っていたんです。相手は4歳上でしたし、結婚も視野に入れたお付き合いだったと思うんです。でも私は、子どもを持てるかもわからないし、治療がどうなるかもわからない。だったら今のうちに別れた方が彼のためだろうなって。

エミリン エミリン

診断を受けたその日に、そこまで考えたんですね。

長藤 長藤

意外と冷静でした。病院でも泣かなかったですし、「まず会社、その次に彼だな」って考えていました。

エミリン エミリン

逆に冷静になっちゃうのかもしれないですね。

長藤 長藤

だから彼の家に行って、「私は大丈夫だから別れたいと思ってる」と伝えたんです。そしたら第一声が、「よかった、今で」でした。
「俺が一緒にいてあげられる今でよかった」って。それまで絶対に泣いちゃいけないと思っていたんです。同情されたくなかったし、しっかりしなきゃって。でも、その一言で全部崩れて、初めて泣きました。

エミリン エミリン

私、その言葉は言えないかもしれない。

タナカガ タナカガ

「大丈夫だよ」は言えても、「よかった」はなかなか言えないですよね。

長藤 長藤

私も逆の立場なら言えなかったと思います。だから今振り返っても、本当に救われた言葉でした。

エミリンさん 健康って当たり前じゃないんですね。 エミリンさん 健康って当たり前じゃないんですね。

「退院したらすぐに働ける」は違った

エミリン エミリン

やっぱり病気そのものだけでなく、仕事を続けられるのかという不安も大きいですよね。

長藤 長藤

私は会社員だったので、正社員という立場に守られていた部分は大きかったと思います。休職制度もありましたし、上司も本当にいろいろ動いてくれました。
でも、これが非正規雇用だったり契約更新のある働き方だったりしたら、全然違ったと思うんです。

タナカガ タナカガ

私やエミリンさんだったら、投稿や配信などができなくなってすぐに収入に直結してしまうかもしれないですよね。

長藤 長藤

治療が長引けば契約更新の問題もありますし、仕事そのものを失う可能性もある。私自身、そういう方のキャリア支援に関わる仕事をしていたので、「世の中にはもっと大変な状況の人がたくさんいるんだろうな」と思いました。

エミリン エミリン

私たちみたいに個人で仕事をしている人間も結構怖いですよね。

長藤 長藤

本当にそう思います。

エミリン エミリン

休んだら収入が止まるし、「いつ復帰できるかわかりません」って職場に伝えるのも勇気がいりますよね。

エミリン エミリン

治療を終えて、お仕事にはいつ頃復帰されたんですか?

長藤 長藤

退院から一週間後です。

タナカガ タナカガ

めちゃくちゃ早い。職場復帰したい気持ちが大きかったですか?こういうときってあせっちゃいますよね。

長藤 長藤

その時点でペットボトルの蓋も自力では開けられなかったので、今思うと無理していましたね。

エミリン エミリン

そんな状態だったんですか。

長藤 長藤

食欲も戻っていないし、立ち上がるだけでもしんどい。でも会社は待っていてくれるし、自分も早く戻らなきゃと思っていたので。

タナカガ タナカガ

私もたぶん同じことをしちゃう気がします。

長藤 長藤

吐きながら会社に行っていました。
今ならもう少し休んでよかったと思えるんですけど、その時は正常な判断ができていなかったんですよね。会社も「待っているよ」と言ってくれる。でも、自分の体は全然大丈夫じゃない。その間を埋めてくれる人がいなかったんです。

エミリン エミリン

退院と社会復帰は全くの別物なんですね。

長藤 長藤

本当にそう思います。4カ月寝たきりだったので、日常生活に戻るだけでも大変でした。でもなかなか病院や会社にも相談できなくて。この時のつらさをサポートしてくれる方々がいたらどれだけ良かっただろうなと思います。

タナカガさん 私も退院後無理して働いてしまいそう。 タナカガさん 私も退院後無理して働いてしまいそう。

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「退院」しても続く、本当の苦しさ

タナカガ タナカガ

復帰してから、一番大変だったことって何でしたか?

長藤 長藤

一番はやっぱり体力ですね。寝込むほどではないんですけど、ずっとしんどい状態が続いていました。

エミリン エミリン

周りからはわからないですよね。

長藤 長藤

見た目は元気そうに見えるし、仕事もしている。でも実際はずっと気持ち悪さが残っていて、ご飯もちゃんと食べられない。

タナカガ タナカガ

それがどれくらい続いたんですか?

長藤 長藤

3カ月くらいですかね。もうゾンビみたいな状態でした。

エミリン エミリン

でも周りからすると、「もう退院したんだよね」「復帰したんだよね」って思っちゃいますもんね。私も同じように思っちゃう気がします。がん治療を経験したことのある人じゃないとなかなかそこを理解するのは難しいかもしれませんね。

長藤 長藤

だから余計に説明も難しくて。それに抗がん剤の影響で髪の毛もなくなりましたし、腕も点滴の跡であざだらけでした。
ただ、私は意外とそこは前向きだったんです。治療中は髪の毛のことを気にする余裕もなくて。

エミリン エミリン

それどころじゃない。

長藤 長藤

本当にそれどころじゃなくて。むしろ治療が終わってからのウィッグ生活は楽しんでいました。

タナカガ タナカガ

楽しんでいた!?前向きでかっこいいです。

長藤 長藤

今ってファッションウィッグがすごく進化しているんですよ。巻き髪もあるし、普段なら挑戦しない髪型も試せる。色々試せるようにあえて医療用のではなく、ファッション用のウィッグを愛用していました。もちろん大変なこともありましたけど、少しでも楽しめることを探していましたね。

働けなくなったからこそ見えたこと

――そうした経験を経て、仕事との向き合い方は変わりましたか?

長藤 長藤

変わりましたね。治療中はもちろん仕事どころじゃなかったんですけど、復帰して体力が戻ってくると、「やっぱり私は働くことが好きなんだな」と思いました。

タナカガ タナカガ

それは意外でした。

長藤 長藤

でも同時に、自分の人生がいつ終わるかわからないということも本気で考えるようになったんです。働けない期間があったからこそ、「人生の大部分を使う仕事は、自分が本当に好きなことをしたい」と思うようになりました。

エミリン エミリン

すごくわかります。仕事は人生に大きく関わってきますもんね。

長藤 長藤

病気になる前は、働けることが当たり前だったんですよね。でも当たり前じゃなかった。だからこそ、どんな仕事をするのか、誰と働くのか、どう時間を使うのかを以前より大切に考えるようになりました。

タナカガ タナカガ

長藤さんのお話を聞いていると、「働くこと」そのものを考え直したくなります。

長藤 長藤

私もそうでした。病気になってよかったとはもちろん思いません。でも、働き方や生き方を見つめ直すきっかけにはなったと思います。

エミリン エミリン

健康も仕事も、当たり前じゃないんだなって改めて感じますね。

長藤 長藤

だからこそ、もし少しでも体に違和感があったら後回しにしないでほしいですし、自分の人生を大事にするための選択をしてほしいなと思います。

長藤さん 仕事に復帰してからもなかなか体調が戻らず、不安やつらさを相談できる人がいてほしいと感じていました。 長藤さん 仕事に復帰してからもなかなか体調が戻らず、不安やつらさを相談できる人がいてほしいと感じていました。

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