「まず上司に電話しました」
――なんの前触れもなく、
27歳で突然の卵巣がん。
――まずは仕事とがんについてお伺いします。
長藤さんが卵巣がんに気づいたきっかけから教えていただけますか?
27歳の時でした。本当に普通の会社員で、これまでに病気ひとつしたことがありませんでした。生理痛も一度も感じたことがないし、生理不順もない。周りにはPMS(月経前症候群。生理が始まる前に起こる心と体の不調のこと。)がつらい友達もいましたが、私はそういうこともなかったので、「婦人科系は強い体質なんだろうな」くらいに思っていました。
それは疑わないですよね。
だから何の違和感もなくて。きっかけも本当に偶然でした。温泉旅行と生理が重なりそうになったので、初めてピルをもらおうと思い婦人科に行ったんです。
えっ、それで見つかったんですか?
薬を出す前の診察で、「卵巣が少し腫れているから、大きい病院で診てもらった方がいいかも」と言われて。大丈夫と言われたら安心できるかな、くらいの気持ちで受診したら、そのまま卵巣がんが見つかりました。
怖すぎる……。
本当に症状がなかったので、「がんです」と言われても何が起きたのかわからなかったんです。
温泉旅行がなかったら、もっと発見が遅れていたかもしれないってことですよね。
卵巣って“沈黙の臓器”とも言われていて、腫瘍がかなり大きくなるまで症状が出ないことも多いそうなんです。私の場合も、卵巣が15センチまで腫れていました。
それだけ大きくなっても気づかないんですね。
先生から「今この瞬間に破裂してもおかしくない状態です」と言われました。元気な状態で病院へ行っているので、「卵巣を摘出します」「がんです」「すぐ手術です」と次々言われても全然追いつかなくて。なので最初は悲しいというより、びっくりしました。でも時間が経つにつれて、今度は仕事や将来のことが押し寄せてきました。
情報が渋滞しますよね……。
将来というと?結婚や出産のことですか?
当時は未婚だったので、「子どもを産めるのかな」とか、「結婚はどうなるんだろう」とか。でも同じくらい大きかったのが仕事の不安でした。
ちょうど働くのが楽しくなってきた頃ですもんね。
しかも、私の場合は、「3カ月で治ります」など完治までの期間は言ってもらえなくて。「治るまでです」としか言われない。
1年、2年、3年なのかもわからない。「会社に何て伝えよう」「籍を置いてもらうのって迷惑だよな」とか、いろんなことを考えていました。
最初に病気のことを伝えたのは誰だったんですか?
上司です。
病院からの帰り道に電話しました。当時は営業職で、お客様もたくさん担当していましたし、まず仕事をどうしようという気持ちが強かったんです。
すごい……。真っ先に仕事のことが浮かんだんですね。でも、私もそうなるかもなぁ。
ホームで電話して、「ちょっと信じられないと思うんですけど聞いてください」って。そしたら上司が「辞めるって連絡かと思ったよ」って言ったんです。
私でもそう思うかもしれないです。まさかがんなんて想像もできないですもん。
そのあと、「そんな心配するな」「お前は治すだけだ」「数字なんてどうでもいい。まずは治してこい」って言ってくれて。
めちゃくちゃいい上司ですね。頼りになる!
本当に救われました。病気になった時って、自分が周りに迷惑をかける存在になったような気持ちになるんです。でも、その言葉で「まずは治療に集中していいんだ」と思えました。
上司に連絡したあと、次に伝えたのは?
付き合って2週間だった彼です。今の夫なんですけど。
2週間!?
すごいタイミング……。
その日のうちに会いに行きました。でも実は、別れようと思っていたんです。相手は4歳上でしたし、結婚も視野に入れたお付き合いだったと思うんです。でも私は、子どもを持てるかもわからないし、治療がどうなるかもわからない。だったら今のうちに別れた方が彼のためだろうなって。
診断を受けたその日に、そこまで考えたんですね。
意外と冷静でした。病院でも泣かなかったですし、「まず会社、その次に彼だな」って考えていました。
逆に冷静になっちゃうのかもしれないですね。
だから彼の家に行って、「私は大丈夫だから別れたいと思ってる」と伝えたんです。そしたら第一声が、「よかった、今で」でした。
「俺が一緒にいてあげられる今でよかった」って。それまで絶対に泣いちゃいけないと思っていたんです。同情されたくなかったし、しっかりしなきゃって。でも、その一言で全部崩れて、初めて泣きました。
私、その言葉は言えないかもしれない。
「大丈夫だよ」は言えても、「よかった」はなかなか言えないですよね。
私も逆の立場なら言えなかったと思います。だから今振り返っても、本当に救われた言葉でした。


































